特集

江戸川をつくる人 第8回 Sui coffee roastery 店主 宗田一秋さん

―お客さんと作ってきた3年間。 『心にしみる一杯のコーヒー』をいれ続けたい-

 江戸川をつくる人第8回は、西小岩にある焙煎(ばいせん)所&エスプレッソカフェ・バー「Sui coffee roastery」店主の宗田一秋さんを訪ねる。2023年7月にオープンした同店は、豊富な種類の自家焙煎コーヒー豆を販売する。コーヒー愛好家がリピートして足を運び、店主との会話を楽しみながら、「深煎り」、「浅煎り」などの豆を選んでいく。

 

  店名の「Sui」は、純粋の「粋」から取ったもの。「自分の感覚を信じて、きれいごとを貫く」そんな思いを込めた店は木目とグレーでまとめ、天井には大きな装花が色彩を添える。

カフェとバーの両メニューを提供する同店は、土曜・日曜は特に家族連れ、カップル、友人同士などの来客でにぎわいを見せる。2025年末からは「& Espresso Bar(アンド・エスプレッソバー)」と銘打った夜営業もスタートした。30年以上のミュージシャン(ドラマー)としての経歴も持つ店主の元には、いつしか個性的で和やかな常連が集まり、新たな地域カルチャーを生み出す場となっている。

 

(宗田さんをイメージして作られた天井装花)               (宗田さんのお姉さんのブランド「Studio703」のマグカップ) 

―改めまして。宗田さん、よろしくお願いします。実は宗田さんとの出会いは、貴店が1周年を迎えたタイミングで伺った時がきっかけですよね。いつも和やかににぎわっていて、人気店だなと感じています。率直に4年目を間近に控えてどうですか?

 「地元の人々に愛される店になりたいと思って店を始めて、ありがたことに、その思いが少しずつ形になっているのかなと感じています。1年目の時からですが、いろいろ試行錯誤しながら、時にはお客さまの意見も取り入れながらやってきました。お客さまと一緒に作ってきた、あっという間の3年間でした」

-確かに、取材のときにその思いを伺ったことを覚えています。思いが形になるってすごいですよね。店に入ると、コ-ヒ-のいい香りとともに、宗田さんがお客さまと楽しそうに会話している様子が印象的です。実際にはどのような意見を取り入れたのですか?

「まずはスイ-ツを作り始めたことです。コ-ヒ-だけだと間口が狭かった部分がありましたが、飲食店で長年働いた経験から、自分が食べたいスイ-ツを発案して、都度お客さまに感想を聞きながら進めてきました。そこから間口が広がって、スイ-ツ目当ての方も多く足を運んでくれるようになりました。コ-ヒ-だけでは知り合えなかったような、新たな出会いもありました」

         

(エスプレッソバスクケーキ)          (その日のスイーツが並ぶショーケース)            (塩バニラのパウンドケーキ)

-エスプレッソバスクチ-ズケ-キ、プリンやコ-ヒ-ゼリ-来る度に新しいスイ-ツが生まれていて、ショ-ケ-スに目を奪われます。

「とにかく初めは自分が食べたいもの、好きなものを作ろうと思いました。コ-ヒ-店ならではのエスプレッソを使ったバスクチ-ズケ-キや、塩バニラのパウンドケ-キは、自分でも特に好きなメニュ-です。温めたパウンドケ-キの上にアイスと、粗塩をひとつまみ振りかけて提供しているのですが、これ、おいしいんです。温かさと冷たさ、甘さの中の塩のアクセントが利いていて」

 -アレンジがさすがです。バリエ-ション豊富なコ-ヒ-と、日々刷新されるスイ-ツの組み合わせを楽しむ方も多そうですね。

 「スイ-ツを楽しみに来てくださる常連さんが、徐々に増えていっている感覚はあるかなと思います。ありがたいですね。いつも食べてくれる人に、僕もいろいろな意見を聞いてみたりしています。新しく作ってみて、感想を聞いて即決採用とかもありました。多分うちの店は、お客さまと僕との距離が近い。もちろん、その距離感は大切にしていますが」

-Suiさんって、たまたま居合わせた人たち同士でも会話をしていたり、それでいて無理がない時間が流れていたりというか…。宗田さんとお客さまの会話、お客さま同士の会話、これを聞いているだけでも楽しめる瞬間がありますよね。こういった時間を楽しみに訪れる方も多いのでは?

「そうですね。店の設計が、僕とお客さまとが対話できるようなカウンタ-メインになっていることもあるかもしれません。僕自身、いろいろな人の物語を聞くのが好きなんです。自分より若い方の話も、昔とは別の視点で捉えることができる年になりました(笑)。先輩の話も、とても参考になる。自分にない人生を歩んでいる人の話を聞くことが楽しい。若い男性のお客さまが、ある日親御さんを連れて来店したり、逆にいつも来てくれるお母さんが娘さんを連れてきたり。会話の延長線に、そんなうれしい出来事もありました」

-そうやって、自然と輪が広がっていくのですね。人柄そのものが店のカラ-というか。本当にすてきですよね。

「ありがとうございます。僕の大切にしている精神が『物事の本質や、自分の感覚を信じて大切にすること。うそのない商売をすること』なんです。来てくださるお客さまにも、Suiのコ-ヒ-やスイ-ツを通じてその感覚を伝えたい。例えば、コ-ヒ-は好きだけど難しいことは分からない。そうした人にも気軽に楽しんでもらえるような店にしたいなと。素直に、おいしいとか、たのしいとか。来店される一人一人の感覚をそれぞれ自由に大切にしてもらえたらなって。何か質問があれば聞いてもらえたら、丁寧に説明もしていきたいです」

                         

(アイリッシュコーヒー)                                                                                                                  (ナチュラルワイン各種)

-宗田さんのその感覚に、居心地の良さを感じるお客さまが多いのかもしれませんね。そういえば、昨年から夜のバ-営業も始められましたがこちらはきっかけがあったのでしょうか?

「きっかけは、これもお客さまです。お客さまとの出会いの延長に、昨年自分がゲストとしてコ-ヒ-を出店した『The East End Gallery』(東小岩5)でのア-ト展示会がありました。そこに集う人々が、楽しそうにお酒を飲みながら、文化的な会話をしていて。この空間いいなって。会期が終わってしまうのが惜しく、だったら自分の店にこの空間を引っ張ってきちゃおうと思いついたんです」

-なるほど。いかに宗田さんが空間、集う人々との空気感を大切にしているかが伝わるエピソ-ドです。ちなみに、バ-営業では、コ-ヒ-はもちろん、アルコ-ルの種類が充実していますが、特に力を入れているメニュ-はありますか?

「『アイリッシュコ-ヒ-』と『ナチュラルワイン』です。前者はやはりコ-ヒ-店として、コ-ヒ-カクテルを作りたいとアレンジしたメニュ-で、大人のスイ-ツ的なお酒です。アイリッシュウイスキ-に、ドリップした深いりコ-ヒ-を入れて、仕上げに生クリ-ムを載せています。そして後者ですが、僕自身、ナチュラルワインはそんなに飲んだことがありませんでした。でも、ワインに詳しい常連さんがいろいろ教えてくれて、勉強することにしました。知れば知るほど、なんてフル-ティ-でみずみずしいワインなのだろうと。その魅力に気づき、感動してしまいました。これは店に置きたいなって」

                                          

(ナチュラルワイン各種)

「そして、夜営業のスタ-トを機に、天井装花をお願いしました。これも、先の参加した展示会をきっかけに、同じ作家さんに頼んだのですが、この花とナチュラルワインが絶対に合うと確信しました。店の気の流れも、さらに良くなる気がしました」

    

-なるほど。まさに、お客さまとの出会いがエッセンスになって、そして店を作っていることが伝わってきます。まさに「お客さまと一緒に作ってきた3年間」なのですね。

 「夜営業でも、カフェタイムでも、たまに居合わせたお客さまと僕と、自然と全員で会話しているときがあって。その瞬間に、店をやって良かったな、この一体感、このgroove感、最高にうれしいと感じます。そうやって、積み重ねてきた瞬間に今がある気がします」

 -「groove」という言葉は、まさに音楽をやっていた方からだからこそ出てくる言葉なのかなと。

 「そうかもしれないです。僕はずっと、楽器はドラムをやっていまして。30年くらいですかね。バンドにおけるドラムのポジションと、今の店の構成はちょっと似ていると感じます。人生の大半を音楽とともに過ごして、音楽からいろいろ教わってきました。そしてコ-ヒ-は、知れば知るほど音楽と似ている気がしていて。音も味覚も目、で見えるものではない。答えがない。聞き手や飲み手がおのおの感じるもの。そして生み出すものは、それを追及することができる。腹は満たされないかもしれないけれど、心は満たされるような」

 -まさに人生を豊かにする「嗜好(しこう)品」みたいな感じがします。

 「コ-ヒ-をいれながら、お客さまと音楽の話をして盛り上がることもあります。ほかにお客さまいなかったら、その人の好きな曲を流すことも…。いずれ音楽を題材にしたイベントも、店でやってみたい。一貫して変わっていないのは、音楽をやっていた時も、今も、受け手の『心にしみる』ものを生み出したいということ。売り上げや、エンタ-テインメント性をもっと考えた方がいいかなと思った時期もあったけれど、自分には無理でした(笑)。それより、正直な自分を表現していこうと。その結果、ファンが増えているということはすごくうれしいです」

 -今後、さらにこうしていきたいといった展望や夢はありますか?

 「思いや空間に、共感してくれる人や仲間がさらに増えてくれればいいかなと。今は店の中での輪も、ここを飛び越えて小岩という町に派生して、町全体に自然な輪やカルチャ-発信が増えていったらうれしい。もしその拠点にこの店がなれたら。ここに来たらだれか楽しい人に会える、少なくとも僕はいます(笑)。そんな感じで、共感してもらえる人に知ってもらって足を運んでもらえたらうれしい」

 -ありがとうございます。さらに多くの人に、すてきな店があることを知ってもらいたいですね。

  「一緒に楽しめる仲間募集的な気持ちで、知ってもらえたらうれしいです。常連さんから『あと30年は店を続けて』と言っていただいているので、これからも『心にしみるコ-ヒ-』をいれ続けていていきたいです」

  -宗田さん、貴重なお話をありがとうございました。

Sui coffee roastery

〒133-0057東京都江戸川区西小岩3丁目35-7

営業時間は水~金が15時~23時、土日祝が11時~18時。月火定休。

Sui coffee roastery(インスタグラム)Instagram

 

 

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