特集

江戸川をつくる人 第2回

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 江戸川区は、大田区に次いで都内第2位という銭湯数の多さを誇る。都内で現存する中で最も古い銭湯があるのも江戸川区で、「あけぼの湯」は1773年に創業した。区内の銭湯は最盛期には148軒あったが、2024年7月現在、26軒が営業している。江戸川区浴場組合は、地域と銭湯活性化に力を入れており、スタンプラリー、東京ニューヨーク寄席、変わり湯など、さまざまなイベントを定期的に開いている。

 特集「江戸川をつくる人」の第2回目は、江戸川区平井で2023年に創業100周年を迎えた「吉野湯」の店主、岡部芳美さんへインタビュー。大正時代から本日まで継承してきた銭湯経営について話を聞いた。

-「吉野湯」は2020年9月にリニュ-アルオ-プンをされていますよね。

1923(大正12)年に、故主人の祖父が石川県から上京し銭湯を創業しました。銭湯には煙突がありますが、この煙突の老朽化をきっかけに、2018(平成30)年ごろ、建て直しをしようという話になりました。

-先代は石川県からこの土地にいらっしゃったのですね。

はい、実は銭湯業界には北陸出身者がとても多いのです。戦前、石川、富山、そして新潟県から出てきて東京で銭湯を営み、家族も呼び寄せて住まわせるといった方もたくさんいたみたいです。

-銭湯というと「下町」文化といったイメ-ジも強かったのですが、温泉の本拠地から出てきた方が多いということは初めて知りました。吉野湯は庭園も美しく、古き良き部分と新築のスタイリッシュさ、どちらもある銭湯ですね。

ありがとうございます。建て替えの時に、どうしても私たちが大切にしたいコンセプトとして「先代から守られてきた坪庭の継承」がありました。今井健太郎建築設計事務所の今井さんは、そうした思いをくみ取り、形にしようとしていただいたので、リニュ-アル設計をお願いすることにしました。

-庭園はずっと大切に継承されてきたのですね。太平洋戦争での空襲もあったかと思うのですが…。

ちょうどこの地域は空襲を免れて、この庭も温存することができたようです。幸運だったと感じます。建物自体は昭和に一度建て替えを行っていますが、その時の縁側の窓は今も残っています。今井さんが、こうした古き良きものも生かす設計をしてくれました。

-吉野湯にくるとほっとします。浴槽のタイルも金魚や花がちりばめられて、落ち着いたデザインに江戸川区らしさも感じます。縁側で一息つけるのも魅力的ですね。

設計やタイルも含め全てお任せしました。レジャ-というよりも、疲れた身体や心を癒やすような、ほっとするような空間にしていきたいと思いながら日々営業しています。そう言っていただけるのはうれしいです。

 

-静かに入浴していらっしゃる方がとても多い印象です。

公衆浴場として、マナ-を守り、静かにくつろげる日常の場所にしたいです。家族連れや若い方もたくさんいらっしゃいますが、ぜひ「しつけの場」としても活用してもらいたい。時にははしゃいでしまう小さな子どもに店主が注意をすることもありますが、しつけの思いでやっています。今利用いただいている子どもや若い方がもっと大人になっても通ってくれるような場所にしていきたいですね。小さい頃から来ていた子たちが、少し大きくなってマナーを守って利用している様子を見るとうれしくなります。

-見守ってくださっているのですね。落ち着いた空間に保ちながら継承されていっているのは、日々の小さな努力があるからなのだなと改めて感じます。

東京ニュ-ヨ-ク寄席をはじめ、江戸川区浴場組合は積極的に銭湯の継承を促す活動をしてくれています。いつか息子の代になっても、来てくださる方に喜んでもらえる銭湯であったらと思います。

 

-岡部さん、貴重なお話をありがとうございました。

 営業時間は15時~24時。月曜定休。リニュ-アル後は高濃度炭酸泉を導入。水風呂あり。

吉野湯 江戸川区:平井 東京銭湯マップ 

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