江戸川区東葛西で創業50年の粘土科学研究所を継承し、直営ブランド「KURUMU」を展開する手塚平さんへのインタビュー後編では、手塚さんが2017(平成29)年から主催している地域イベント「えどがわ楽市」にフォーカスする。行政や商店街の力を借りず、独自の手法で人を集めるその運営論には「応援される会社」としての明確な哲学があった。

-手塚さんが主催している「えどがわ楽市」について教えてください。今年で7回目になるそうですね。
はい、2017(平成29)年にスタートし、コロナ禍での2回の中止を経て、今年で7回目を迎えました。このイベントの特徴は、行政や商店街といった組織の力を借りず、完全に私たちが企画・運営を行っている点です。
きっかけは、以前関わっていたクレイをテーマにしたヨガと音楽の野外フェス「クレイトピア」というイベントでの経験と、単純に「自分の3人の子どもたちが遊べる場所を作りたい」という親心でした。葛西で会社を経営していくうえで、地域とのつながりは不可欠です。「地域の集客性、人通りの多い少ないを嘆くより、自分で最高の場所を作ってしまえばいい」と思い、スタートしました。

-今年は出店者を全て「公募」に切り替えたと聞きました。
以前まではこちらから面白そうな方に声をかけていたのですが、回を重ねるごとに予定調和になっていく感覚があり…。「ぶっちぎったことをやらないと刺さらない」と思い、今年はフル公募にしました。そうしたら長野県から陶芸家が参加してくださったり、面白い人たちが増えたりして、新しい風が吹きましたね。
運営においては「未来への投資として楽しむ」ことを大切にしています。今年はあえて私自身が「熱い言葉」をスタッフや出店者に投げるように意識しました。指標となる言葉がないと、思いは伝わりませんから。

-「リーダーが熱量を持つ」ということですね。
そうです。参加してくださる方々には「何かトラブルが起きた時は絶対に僕が責任を取るから、遠慮なく言ってほしい」と伝えています。全体を見る責任者が「有言実行」で動くことで、みんなが安心してパフォーマンスを発揮できる環境を作りたいのです。

-「楽市」には、手作り感がありつつも、どこか洗練された空気感があります。
葛西という土地柄、「お金をかけた豪華なもの」よりも、手作り感や「抜け感」がある方がフィットする気がしています。ただ、SNSでの告知画像のデザインルールを徹底したり、出演してくれるキッズダンスチームの紹介を丁寧に行ったりと、「ちゃんとやっている」部分は崩さないようにしています。人を呼ぶのは主催者の仕事です。出演者が「あのイベントに出られてうれしい」と誇りに思えるような、最高のステージを用意することが僕の役割だと思っています。

-手塚さんがそこまで地域イベントに力を入れる理由はどこにあるのでしょうか。
「応援される会社になるべき」という思いが根底にあります。 会社として売り上げを上げることは当然ですが、その利益はぜいたくに使うのではなく、地域へ還元したい。私がぜいたくをするなら、この「楽市」のようなイベントにお金をかけたい。そうして地域に楽しい場を提供すれば、巡り巡って「あの会社、いいよね」と応援してもらえるのかなと。お父さんやお母さんの日常会話に「KURUMU」や「楽市」の名前が自然と出るような、生活に浸透した存在でありたいですね。

-最後に、今後の展望や、地域へのメッセージをお願いします。
「葛西のようなローカル性の高い地域でも、面白いことはできる」という誇りを、住民の皆さんに持ってほしいです。「都心へ行かなくても、地元でこんなに楽しいことができる」と感じてもらえたらうれしいですね。イベント自体をこれ以上巨大化させるつもりはありませんが、例えば江戸川区の北側である小岩のイベントとコラボレーションするなど、南北のつながりを作れたら面白いですね。名産品を交換したり、2拠点同時でイベントを開催したり…。地域の中で「点と点」がつながるような動きを、これからも仕掛けていきたいです。

-手塚さん、ありがとうございました。
〇えどがわ楽市:2017年に始まり、2025年で7回目を迎える地域密着型マーケットイベント。マルシェ、ライブ、ダンス、スポーツ体験、その他いろいろな要素を複合的に盛り込んでいる。地元である江戸川区を盛り上げたいと集まった有志が自ら体験し、面白いと感じた店やアクティビティーを紹介。「KURUMU」の手塚平さんが実行委員長を務める。